2019/05/02

レビュー:朗読絵本「skybutterfly~殻の向こう~」


[絵本] 絵/umi.doodle 物語/瑠璃
[朗読CD] 語り/須賀由美子 音楽/安生正人 演出/ゆたかあすか
発行所/ソラノイエ
価格/3,000円+税



誰も知らない難病"表皮水疱症"から生まれた「朗読絵本」。

小さな身体で、大きな世界を一生懸命に生きるイモムシの姉妹。
2人が蝶となり、空へ羽ばたくまでの物語です。

ひとりぼっちじゃ生きられない。
「殻」の向こうにある世界へ踏み出す勇気を、教えてくれました。



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今回は、私も朗読演出として携わった朗読CD付き絵本「skybutterfly~殻の向こう~」をご紹介します。
ですが絵本の紹介の前に――絵本の表紙となったこの「絵画」には、とても大切な想いが込められています。
その制作の背景や製作者の想いも併せて、ご紹介させていただきます。

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希少難病「表皮水疱症」とは
皮膚をつくるタンパク質の生成に問題が生じ、肌に摩擦がおきると、火傷のような水ぶくれやただれができる等の症状がでる病気です。
症状には個人差があり、重度のものだと悪性腫瘍などの合併症を引き起こす場合もあります。

患者数は国内で2千人程と推定されています。
「近い将来、治る見込みの高い難病」といわれていますが、現在は水疱をすばやく処置する等の対症療法のみで、病気を完全に治す治療法はありません。
その時々の症状を軽減する対症療法が中心で、生涯にわたり繰り返していく必要があります。
遺伝性の高いものでもあるため、1日でも早い治療法の確立が急がれています。

また、最新の事例として、栄養障害型患者への骨髄移植を行い皮疹の改善を認めたという報告がアメリカや欧州で報告されています。
日本でも、大阪大学の玉井克人教授のもと、骨髄間葉系幹細胞移植の治験がすでに行われており、臨床への期待が高まっています。(下記リンク先より引用)

治療法・研究についての詳細はこちら
(表皮水疱症友の会DebRA Japan HPより)


絵画のはじまり
画家として活動しているumi.doodle(うみ)さん。
彼女のお姉さんは「先天性表皮水泡症」という難病を抱えています。

「表皮水泡症友の会の、会のロゴを作れないか」というお姉さんの相談を受け制作されたのが、絵本の表紙となった絵画「Sky Butterfly-to DEBRA-」


表皮水疱症は、海外では「繊細」というイメージから「バタフライ・チルドレン=触ると壊れる子供たち」とも呼ばれています。
本来の蝶々のイメージに目を向けて欲しいという思いから、「蝶を探してふと見上げたら、空の虹を見付けた女性」の絵となりました。

カレンダーやポストカードとしても販売され、売り上げの一部を会に寄付するというチャリティ活動としても展開されました。
(2017.10.22 下野新聞より)


絵本制作にあたって
今回を機に、さらに一人でも多くの方に「表皮水疱症」を知ってほしい。
umi.doodleさんは、自分が作家として出来ることは何かを考え始めます。

そうして思い悩んでいたところ、友人であるアナウンサーの須賀由美子さんから「この絵画を表紙にした絵本はどうだろう」という提案がありました。

社会へより広く発信させる手段として、絵本の制作資金はクラウドファンディングで集めることを決意。
ケルティックハープ奏者の安生正人さんなどアーティストが集い、一つの「朗読CD付き絵本」が生まれました。


出版記念イベント開催
クラウドファンディングにて目標達成し、書籍化が決定。
2018年6月に感謝の想いを込めて出版記念イベントを開催しました。
支援者の皆様への配本やご挨拶、友の会DebRA Japanの代表・宮本恵子様からのメッセージをご紹介させて頂き、心温かな時間を過ごすことができました。

現在、支援者の皆様の他にも様々な方々のもとに届き、ご愛読いただいています。



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本作へのレビュー

物語の展開は同じですが、絵本本文と朗読CDに収録された台本の構成は全く異なるものです。
「目で見る物語」と「耳で聞く物語」の違いから、それぞれ違うアプローチでお話が仕立てられています。
絵本用に上がってくる原稿には、私自身もいち読者として楽しみにしておりました。
今回は絵本としての物語について、客観的に感想を述べさせていただきます。


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物語の主人公は、小さなイモムシの姉妹。

元気で明るい妹と、優しくて温かな存在のお姉さん。
2人はいつも一緒でした。
ある雨上がりの日。葉から落ちた大きな雨粒がお姉さんにぶつかってしまいます。
水たまりに落ちてしまったお姉さんは、深い深い悲しみに沈んでしまいました。

いつも助けてくれたお姉さんに、かける言葉がみつからない妹。
2人の心の距離はだんだんと離れていき、冬眠を迎えてしまいます・・・




ラストシーンでは殻を破り、自分の思いで外の世界へと羽ばたいていく姉妹が描かれていますが、
そこに至るまでの心象風景の描写が、絵・文ともに繊細で、リアルな切なさが伝わってきました。

落ち込んだ姉へかける言葉が見つからない妹。
自分の「殻」に閉じこもる妹。
深い悲しみの中でお姉さんが目にした、悲しいほどに綺麗な空。

これらの描写には、生きていくことの難しさや、立ちはだかる障壁への悔しさ、自分への虚しさが滲み出ています。


大切な人が落ち込んだ時、自分には何ができるだろう
自分が立ち直れなくなってしまったとき、何が自分を動かすのだろう
自分にとって大切なことは何なのだろう


大人でさえも悩ましいこれらのことですが、
物語の妹は、「大切なこと」を思い出すことで「殻」を破りお姉さんと再会できます。



辛いシーンもある物語ですが、
他者と手を繋ぐこと、共に生きていくことの尊さが根底にあります。


「ひとりぼっちでは生きていけない」

「あなたはひとりじゃないんだよ」


作品帯に書かれている「未完成な大人と未来ある子どもたちへのエール」というフレーズ。

今、物語の全てを理解することが難しかったとしても、
いずれ「人生の困難」に直面した時には、そっと本棚から引っ張り出して、ページをめくってみてほしい。
どうしようもなく困ってしまった時に、そっと寄り添える存在であってほしい。

そんな可能性を、この絵本に感じました。

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私自身も、このプロジェクトを通して「作品作り」という面以外にも多くのことを学ばせていただきました。

人生の中で、
行き詰ったときの苦しさ、転んだときの情けなさ、立ち上がることへの恐怖。
前進したいと望みながら、要らないことばかり考えてしまう。
時には気づかないふりをして、誰かの許容に甘えて「惰性」で進んでしまうことも。

しかし、「ひとりではない」という言葉は決して他力本願であれば良いわけではなく、
そこには必ず自分の意志も灯らないと、相手とは反響しあえないんですよね。

安心して、勇気をもって、飛び込んで。

物語の中の妹は、そういう意味でお姉さんと分かち合えたのではないでしょうか。


常に、自分の中の大切なことを忘れないように、見失わないように。


この絵本を手にした人には、
周りの人と尊重しあえる絆が育まれることを願っております。


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<参考>
なお、より詳細な制作の経緯やメンバーの想いは、こちらのページをご覧ください。
「クラウドファンディング kibidango(きびだんご)」
skybutterflyプロジェクトページ

表皮水泡症友の会「DebRA Japan」のHPはこちら。
http://debra-japan.com/

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