2019/03/24

レビュー:人生バイプレイヤー きょうだい児を生きる




著者/中澤晴野 発行所/株式会社文芸社 価格/1,000円+税



<こんな人におすすめ>
きょうだい児としての悩みを共有したい
障がい者家族を支援したい、している


 
きょうだい児としての「告発本」
 
「障がい者本人も苦しんでいる」「親は十分努力している」
その事実の裏側にある「きょうだい児の葛藤」が吐露されていました。
 
支援の手からこぼれ落ちてしまう「きょうだい(児)」の存在を、改めて思い出させてくれました。


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筆者は現在、ダウン症を抱える弟「Aちゃん」と両親とともに暮らしています。
Aちゃんが生まれてから現在に至るまでの生活が、筆者視点で記されています。

両親との確執、学校でのいじめ、本人に発症した病。
さまざまな問題に見舞われながら、筆者自身の人生が「透明な鎖」でがんじがらめに縛られていく様子が伝わってきました。

幼少期から刷り込まれてきた「バイプレイヤー=脇役」気質。
その根源が、筆者の経験を通して丁寧に触れられています。

また、「いろいろなきょうだい児」(本書P83より)と題して、家庭環境の違いから生じるきょうだい(児)の多様性も認めていらっしゃるので、公平な目で読み進めることができました。


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まずは、きょうだい児の葛藤をよくぞここまでストレートに発信してくださった、と敬意を表します。


私も筆者と同じく、障がい(知的障がい)を抱える姉と妹を持つ「きょうだい(児)」です。
共感と納得ができる部分が多々あり、筆者が受けた理不尽な出来事の連続には思わず涙しそうになりました。
それは悲しみの涙ではなく、わたしの中にもあるきょうだい(児)特有の「寂しさ」が胸を打ったのです。


筆者は本書を「告発本」と表しています。
確かに、家族への仄暗い感情や、家庭内の不和を赤裸々に語る点ではそのように言えるかもしれません。


ですが、筆者は本書で
「この告発が誰かにとっての受容と共感となってくれることを願っている。(本書)P83 より)」
と話しています。


「きょうだい児」という言葉を私が初めて知ったのは、SNSでした。
「#(ハッシュタグ)きょうだい児」には、様々な環境を過ごすきょうだいたちの「リアルな声」が刻まれています。

きょうだい児は親と違い、同じ境遇の仲間をみつける手段が子供のころには持てません。
「ネガティブ」な感情、またそれを抱えることへの「罪悪感」。それすらも共有できる場はまだまだ少ないです。
同じ考えを持っている仲間と出会えることは、たとえ顔が見えないネット上であっても心強いものです。

本書はそのネットの世界から飛び出して、「出版」という、より大きな声で発信された勇気の塊だと感じました。


きょうだいとしての悩み、葛藤、不安。
ネガティブな気持ちは抱えてはいけないものではない。
むしろそれに気づかないふりをして、自分を殺してしまうことの方が、私はよほど恐ろしいものに思えます。
もし人知れず、きょうだいとしての境遇にもやもやした気持ちや心の傷を抱えている方がいらっしゃったら、
本書をご覧いただいてその気持ちが共有できれば、他者を知る=自己を顧みる機会になるのではないかと思います。



また、障がい者家族を支援されている方、これからされる方。

きょうだいへの理解なくして、一家族への支援は成り立ちません。
すべてのきょうだいが本書と同じ経験を経ているわけではありませんが、ぜひ知ってほしい。
そんな私の個人的な感想より、<こんな人におすすめ>に入れさせていただきました。



最後に

他人事のような言葉しか送れないことが口惜しいですが、

今もなお苦しい日々と戦う筆者の人生に、すこしでも光が射すことを願うばかりです。

2019/03/22

『米国きょうだい支援プロジェクト ドナルド・マイヤー氏 講演会 in OSAKA』 感想


きょうだい支援の世界的先駆者ドナルド・マイヤー氏の、おそらく日本で最後の講演会。

きょうだい(児)について研究されている方は、誰もがその名前を目にしてきたことでしょう。

特別なニーズのある子どものきょうだいのためのワークショップ「Sibshop」(シブショップ)の開発者です。


定員300名の客席はほぼ満席。
参加者はきょうだい(児)本人の方、障がい・病児をもつ親御さん、実際にきょうだい支援をされている方、また障がい者家族ではない方など様々。
TV局の取材も入り、メディアからも注目されている様子でした。

今回は「きょうだい支援の原点とこれから」と題し、 きょうだい支援の必要性や、アメリカでのきょうだい支援の歴史などお話しいただきました。

本記事ではそのごく一部のみ、ご覧いただいている皆様と共有させていただきます。
(※一部抜粋であり、講演会に参加されていない方には解釈しづらい点があるかもしれません。)


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――アメリカのきょうだい支援

アメリカでのきょうだい支援の啓発活動はおよそ100年前まで遡る。

その長い歴史の中、 故ジョン・F・ケネディ米大統領の実妹・ローズマリー・ケネディが知的障がいを患っていたのは有名な話だ。
日本にも普及したアメリカ発祥の「スペシャルオリンピックス(知的発達障害のある人の自立や社会参加を目的としたスポーツ組織)」は、そもそもケネディの別の妹・ユーニス・ケネディ・シュライバーが知的発達障害のある人たちを招いて、自宅でデイキャンプを行ったのが始まりだった。
ケネディの他の兄弟姉妹たちには「悪名高い障がい者収容施設の廃止」「障がい者のための制度の改善」などの功績がある。
ケネディ兄弟姉妹がアメリカの福祉分野に与えた影響は大きく、それがのちのきょうだい支援にも繋がっている。

他にも10代のための「シブティーン」
20代のきょうだいのための「シブトゥウェンティ」
国が支援する「シブリングリーダーシップネットワーク」など、
様々な支援団体がその活動の幅を広げてきた。
アメリカではきょうだい支援の充実に向けて、国会議員へ積極的なアプローチも続けている。

マイヤー氏の「Sibshop(シブショップ)」は、もともとは「障がい・病児をもつ父親の会」として、同志と立ち上げた組織がきっかけであった。
様々な家族とふれあい情報共有することで、障がい・病児の「きょうだい」への支援の必要性をマイヤー氏は説いてきた。


「40代、50代になって初めて他のきょうだいと出会うという人もいた。そんなに辛いことはない。親だったらコミュニティを自分で探せるが、子供であるきょうだい(児)にはその手段がない。親が忙しくてきょうだいが孤独になりがちな分、Sibshopで埋めたい」
(※会場通訳より)

同じ境遇の仲間を見つけたり、楽しいことや苦しいことを共有したり、 親が受ける恩恵と同じものをきょうだい(児)に提供できる場であるようにと願って、Sibshopは現在8か国475か所で行われている。


――きょうだい支援の必要性

今回マイヤー氏は、「3つのことを持ち帰っていただきたい」と次のことを冒頭で挙げられていた。

1 親の経験と「きょうだい児」の経験は似通っている
家族を支える「悩み」や「経験」は同じなのに、現在の社会的支援には親への配慮があっても、きょうだいに対してはまだまだ希薄である。

2 きょうだいの課題は一生涯である
きょうだいは障がい・病児と一番長い時間を過ごす。
さらに年代ごとに移り変わる「悩み」に常に対応していかなければならない。
親亡きあとは特に、きょうだいの役割は大きくなっていく。

3 日々の生活の中でも、障がい・病児と過ごす時間はきょうだいの方が長い

(※会場通訳より)

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わたしには知的障がいを抱える姉と妹がいます。

今回の講演には、深く思い当たることもあればハッとさせられるようなお話もありました。

特に「障がい・病児と一番長い時間関わるのはきょうだい児」であるということは、まさに灯台下暗し。


一般的に障がい者家族への支援というと、「障がい児」と「その親」に強くフォーカスされ、「きょうだい」の存在が無意識に外されることがあります。
その感覚は、きょうだいであるわたし自身ですら持っていました。

「病気を抱えている兄弟姉妹が一番つらいんだから」
「お父さん、お母さんは毎日大変なんだから」
「健康に生まれた自分に感謝しよう」
そんな風に感じているきょうだいは、他にも大勢いらっしゃることと思います。
逆に、親からそう教えられたり、周囲の人々からそう言われたりした経験がある方もいます。

しかし、それだけが全てだと「自分のことは後回し」という結果になってしまうのではないでしょうか?
きょうだいが持ちやすい「自己肯定感の低さ」は、このことから起因している部分もあると思います。私自身も、この言葉にしがたい感情には長年悩まされてきました。


きょうだいにはきょうだいの人生があって、自分が生きたいように生きていい。
ただ、それがわかっていても現実的に難しい環境に置かれている方もいます。


「障がい・病気を抱える兄弟姉妹と最も長い時間を過ごすのはきょうだい(児)で、1番光が当たらないといけない存在」
「故に、きょうだい支援は障がい・病児への波及的効果もある。これに投資しない手はない。」

とマイヤー氏は語られました。(※会場通訳より)



このような言葉で、きょうだいを慮る言葉を耳にしたのは初めてでした。
この「波及的効果」というワードには幅広い解釈がなされるかと思いますが、
わたしはきょうだい支援=「自分らしく生きることを応援してもらえる」ことは、「障がいを抱える姉と妹を見捨てることではない」と感じています。

(そう言うと「自己中心的」と感じられる方もいらっしゃるかと思いますが、そのような自責の念を抱いてしまうこと自体が、わたしのなかのきょうだいとしての習慣から起こされる負の感情であるなら、
今ここでは、正直な言葉で表現させて頂くことをお許しください。)

そしてその支援に投資してくれる(=時間とお金をかける)存在がいらっしゃったこと。
言葉や想いだけではなく、行動で表し実現させ続けているマイヤー氏を、改めて尊敬致します。


幼少期に抱いた寂しさ=心の中の小さな自分にも、スポットが当たってもよいのだと、
安心するような思いを抱きました。



マイヤー氏がまとう優しい雰囲気はそのまま会場に広がって、終始穏やかな講演会であったと思います。 日本で最後になるかもしれない今回の講演会は本当に貴重で、大切な機会でした。

普段、きょうだい(児)についての主な情報収集がネットや本だったりしますが、実際に海の向こう側で活動されている方にお会いできたことで、より現実的に自分のきょうだいという立場を見据えることができました。

わたしの姉と妹は現在入所中ですが、親亡きあとや私自身の生活の変化に、今後どういった影響が生じてくるのか。
自分の家族との未来を健やかに歩むためにも、構えることは必要なのでしょう。

自分自身の苦しみや楽しさという気持ちに寄り添いつつ、正しい情報と公平な目を養うことも、自分の生き方には必要なことなのだと強く実感いたしました。




本講演の主催「NPO法人しぶたね」様 HP http://sibtane.com/
共催 「きょうだい支援を広める会」様 HP http://siblingjapan.org/
スペシャルオリンピックス HP http://www.son.or.jp/

2019/03/14

レビュー:「ウチの子、発達障害かも?」と思ったら最初に読む本


 

 
著者/広瀬宏之  発行所/永岡書店  価格/1,200円+税



<こんな人におすすめ>
発達障がいについて不安を抱えている
発達障がいを正しく理解したい
育児に悩む親御さん(特にお母さん)
きょうだい(児)の方



発達障がいって?

専門家ですら診断が難しい"発達障がい"を分かりやすく解説してくれた本。

福祉制度の改善によって、近年は耳にしたり、関わったりする機会が増えてきた「発達障がい」。
しかし、それを正しく理解し、説明できる方は少ないのではないでしょうか。

もしも、自分の子どもの発育に不安を感じたら――
目を通しておくだけでも、大切かもしれません。



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自分のこどもが「健康」に生まれてくること。
これは親となるすべての人が当たり前に抱く願望だと思います。
だからこそ「あれ?」と感じ始めた時には、不安でしょうがなくなることでしょう。

今回ご紹介するこの本は、タイトルにある通り「かも?」と思った保護者(主に母親)に向けられたものです。


個々によって症状の程度や幅が広い「発達障害」という病気がわかりやすく説明されています。
「複数の特性が混じったミックスジュース」(本文33Pより)など易しい言葉で伝えられており、医師として告知に気を配ってきた著者ならではの気遣いが伝わってきました。
挿絵にも愛嬌があり、発達障害の生々しい症状を説明するページでも可愛らしい子どものイラストで癒され、抵抗感が和らぎます。


親から寄せられた質問に著者が回答していく「Q&A方式」の実用書。
発達障害児への支援に関わって20年。3千人以上の発達障害を抱える人々と関わってきた著者の経験が並べられています。

1つの質問に対して2ページほどの回答なので、奥深く知りたい場合には少しもの足りないかもしれませんが、読者が発達障害と向き合う「最初の一歩」ならとても読みやすい本です。


特に目を引いたのは「次の子を産みたいのですが、大丈夫でしょうか?」というQ。
2人目も同じ症状を抱えるのだろうか、逆に健康に生まれてきた子(きょうだい児)は上の子との環境に戸惑いを感じないだろうか、という親の不安が表れています。
回答には、遺伝に関する具体的な数値も提示しつつ、希望も手放さない著者の分析と言葉が載せられています。悩める親達にもきちんと選択肢はあるのだということが伝わってきました。

また病気についての知識のみではなく、親戚や教員、PTAとの人間関係のアドバイスも豊富で、人付き合いの多い母親へ向けた書籍でした。
健康に生まれたきょうだい(きょうだい児)への接し方にも触れており、様々な子育ての形が提案されています。

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わたしがこの本を呼んだキッカケは、実の姉と妹が抱える「発達障がい」についてもっと知りたいと思ったことでした。

発達障がいは、「自閉スペクトラム症」「ADHD」「知的障がい」など様々な症状に分類されます。
しかし1人の子どもに対しそれらの症状は混在しており、一概に分類できないこともあるのです。
現に、姉と妹は「知的障がい」と診断されていますが、読後、症状を細かく観察すると「自閉症スペクトラム」も併発しているように見えます。
(20数年前の診断なので、当時は今ほど症状が細分化されていなかったからかもしれません)

きょうだいである私が思うのは、「自分の子供がもし、姉妹と同じ障がいを抱えて生まれてきたら」ということ。
遺伝の可能性については悩みがつきませんが、それでも「正しく理解する」ことは、不安やストレスを軽減させてくれます。
自分の「家族」と向き合っていたいという思いを、そっと後押ししてくれる、そんな内容でした。


永岡書店HP 書籍紹介ページ
https://www.nagaokashoten.co.jp/book/9784522436356/

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